システム疾患モデル研究センター・発生工学研究分野

 

連絡先:吉田進昭(教授)

〒108-8639 東京都港区白金台4-6-1
東京大学医科学研究所システム疾患モデル研究センター発生工学研究分野
E-mail:nobuaki[at]ims.u-tokyo.ac.jp

 

われわれの研究室は、発生工学をベースに、生体における遺伝子機能の解析を行なっています。 個体レベルでの遺伝子機能の解析、疾患モデルの作製は、基礎研究にとどまらず、TR(Translational Research)への橋渡し研究としてもますます重要な位置を占めています。システム疾患モデル研究センターは国内外の大規模プロジェクトと連携し、網羅的な遺伝子ノックアウト(KO)の作成のみならず、遺伝子発現調節機構を担う非翻訳領域やエピゲノムの解明にも力を注いでいます。また最近開発されたより迅速な遺伝子改変技術であるCRISPR/Cas9システムも積極的に取り入れ、さらなる技術開発も試みています。われわれの研究室は、研究者自身の自主的発想を重視し、その研究が遺伝子機能の解明、疾患モデルの作成、医学への応用へとつながっていくことを念頭に置いて、明るく活発な雰囲気の中で研究を行っています。キーワードは発生工学、胚性幹細胞(ES細胞)、体性幹細胞、リンパ管であり、現在のプロジェクトは下記の4つに集約されます。個性的な人、元気のいい人、実験が何よりも大好きな人の研究室来訪を歓迎します。

 

(1)発生工学的手法を用いた遺伝子機能の解析

(2)ES細胞の性状解析および個体レベルへの展開→ ES細胞、iPS細胞研究の現状

(3)体性幹細胞の持つポテンシャルの評価

(4)リンパ管の発生分化の研究

 

(1)発生工学的手法を用いた遺伝子機能の解析

 われわれは、遺伝子改変技術を用いて、単純な遺伝子ノックアウトにとどまらず、点突然変異やマーカー遺伝子、ヒト遺伝子の導入などのノックイン、さらにはCre-loxPやFLP-frtシステムを用いてのコンディショナルノックアウト法など、さまざまな方法を駆使して個体レベルでの遺伝子機能の解析を行っています。また多くイントロンに存在するmiRNAを特異的にKOしたり、遺伝子発現や細胞分化のコミットメントに関与するエピゲノム関連遺伝子の解析にも注力しています。すべての遺伝子を網羅的にKOし、解析を計画的に行う国際プロジェクト(IKMCやIMPC)も進行しており、それらとも連携しながら、またCRISPR/Cas9システムを用いてのわが国におけるノックアウトプロジェクト(fMENA, ホームページ参照)を先導的に進めています。


(2)ES細胞の性状解析および個体レベルへの展開

ヒトES細胞やiPS細胞といった多能性幹細胞の樹立により、再生医療に対する期待はかつてないほどの高まりを見せています。この再生医療をより安全なレベルで実現するためには、これら幹細胞の多能性を制御する分子基盤を更に深く理解することが必要であると同時に、目的の組織への分化を適切に制御する発生メカニズムを詳細に解明する必要があります。われわれの研究室ではES細胞の多能性を司る因子のスクリーニングを行い、RNA結合タンパク質であるPTBが細胞周期を制御することでES細胞の増殖を調整していることをこれまでに突き止めています。現在は、ヒストンのエピジェネティクスおよびRNAの選択的スプライシング機構に特に着目しつつ上記(1)で記載したような最先端の遺伝子工学技術を駆使して様々な遺伝子改変ES細胞を作成し、ES細胞の多能性を制御する分子基盤の探索を行うとともに、それらの遺伝子改変ES細胞から個体を作成することで、個体の発生・分化過程における各遺伝子の働きについて解析を行っています。

ES細胞、iPS細胞研究の現状

(3)体性幹細胞の持つポテンシャルの評価

 成体に数多く存在する体性幹細胞は、基礎生物学的な興味のみならず再生医療への応用という観点からもその性状を詳細に理解することが強く望まれている細胞です。われわれの研究室では、主に神経幹細胞と精原幹細胞に着目しながら、上記のPTBならびにそのファミリー遺伝子であるnPTBに加え、ヒストンのエピジェネティックな修飾を司るFbxl10、Fbxl11やpolycomb遺伝子に注目し、分子、細胞から個体レベルに至る包括的な視点で遺伝子機能を解析しており、PTBが胎生期の神経幹細胞の正常な発生、分化に必須であることを明らかにしているほか、Fbxl10のKOマウスでは外脳症を呈することを報告しています。また、PTBとnPTBあるいはFbxl10とFbxl11の欠損により重篤な精子形成不全が生じることも突き止めています。さらに、PTBやFbxl11は血液細胞の発生にも関与していることが示唆されることから、神経系・生殖系に加え免疫系における同遺伝子の機能解析も開始しており、こちらについても興味深い知見が得られ始めています。

 

 

(4)リンパ管の発生分化の研究

リンパ管は、吸収や免疫システムにおいて重要な役割を果たす脈管です。その形成異常は、浮腫、栄養吸収障害、炎症などの原因となるため、リンパ管形成の分子機構を理解し、適切なリンパ管形成を人為的に制御することが望まれています。われわれは、リンパ管内皮細胞における1) Rasシグナル伝達の役割、2) ヒトやマウスにおける先天性リンパ浮腫の原因遺伝子であり、リンパ管形成に必須であるVegfr3遺伝子の遺伝子発現制御機構、の2点に着目して、in vivo、in vitroの両方の実験系を駆使した研究を進めています。これらの研究は、リンパ管内皮細胞の挙動を決める分子機構や、Ras/MAPK症候群および先天性リンパ浮腫におけるリンパ管形成異常の理解につながることが期待されます。また、リンパ管内皮細胞は、血管内皮細胞から分化しますが、その後、血管系から独立して独自の脈管網を形成します。この血管系からの分離において、血液中の細胞の重要性が明らかになっているものの、分離機構の実体は依然として不明です。われわれは、血管・リンパ管分離異常を呈するPlcg2遺伝子の突然変異マウスおよび遺伝子改変マウスを用いた分離機構の解明や、血管・リンパ管内皮細胞のアイデンティティーの確立および破綻に関する研究にも取り組んでいます。