2012年3月まで

研究内容

1. 細菌感染の分子応答機構の研究
2. 細菌の宿主防御回避・抑制機構
3. 腸管病原性大腸菌 (EPEC) の研究
4. ヘリコバクターピロリによる発癌誘導機構
5. 腸管病原性大腸菌 (EPEC) の研究
6. 赤痢菌のワクチン開発を目指した研究

7. エフェクター蛋白質の菌体外分泌機構


1. 細菌感染の分子応答機構の研究

 細菌は感染に伴い細胞へシグナルを発信します。このシグナルは受容体により細胞内シグナルへと変換され、さらに様々な反応を細胞へ惹起します。その一つは細胞骨格蛋白質の再構築で、これを利用して細菌は上皮細胞へ密着あるいは侵入します。一方感染を受けた細胞はそのシグナルを感知して、サイトカインを産生します。すなわち、周囲に危険を知らせます。この細菌と宿主のやり取りを、ヘリコバクターピロリ、赤痢菌、EPECを用いて分子レベルで解明しています。



2. 細菌の宿主防御回避・抑制機構

 赤痢菌、ヘリコバクターピロリ、O157のような、ヒトの粘膜面に対して感染する病原細菌は、食細胞による貧食、食胞内における分解、細胞質におけるオートファジーなど感染に伴って誘導される様々な宿主防御機構を巧みに回避・抑制する能力を備えていることが推定されています。この細菌の回避・抑制機構を、細胞・組織・個体レベルで解明する研究をすすめています。



3. 腸管病原性大腸菌 (EPEC) の研究

 EPECはO157や赤痢菌と同様にヒトの腸管に感染し下痢を起こします。しかし、EPECはO157や赤痢菌のようにベロ毒素の産生も腸管上皮細胞への侵入性もなく、下痢がどのようにして誘発されるのかその直接の病原因子はまだよく判っていません。今までの研究では少なくともEPECの上皮細胞への強固な付着が重要であることが明らかにされています。さらにEPECはO157と共通 する病原性遺伝子群を持っており、O157の病原性の解明にも役立つものと期待されています。私達はEPECの細胞への付着の分子機構の解析と新しい病源性因子の探索をすすめています。

 



4. ヘリコバクターピロリによる発癌誘導機構

 ヘリコバクターピロリは世界の半数以上の人々が感染していると推測されており、胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃癌などの胃関連疾患の発症と疫学的関連性が指摘されています。胃癌の患者から分離されるピロリ菌のほとんどは、タイプIV分泌機構とその分泌蛋白CagAの陽性株であり、陰性株よりも激しい炎症を惹起することが知られています。私達はこれらの病原因子が菌の誘導する発癌にどのように寄与するか、培養細胞・実験動物を用いた感染実験を中心に解析をすすめています。



5. 細菌によるマクロファージ細胞死の誘導機構

 赤痢菌をはじめとする多くの粘膜病原細菌は、宿主細胞へ細胞死(アポトーシスやネクローシス)を誘導し細胞を殺す機能があります。赤痢菌はマクロファージにネクローシスを起こしその細胞を破壊します。その結果、マクロファージから多量のIL-1β、IL-18や炎症性物質が放出され、感染局所に強い炎症が誘導されます。またヘリコバクターピロリも胃上皮細胞へアポトーシスを起こすことが報告されていますが、逆にその抑制を行っているという報告もあります。そこで、病原細菌の粘膜感染の成立に、宿主細胞のアポトーシスがどの様に関わり、またその誘導や抑制機構はどのような分子やシグナルを介して行われているのか、赤痢菌とヘリコバクターで解明する研究を行っています。

 

6. 赤痢菌のワクチン開発を目指した研究

 赤痢菌は、臨床分離株のほとんどが多剤耐性菌であることから、有効なワクチンの開発が求められています。しかし、赤痢菌は感染に伴い強い炎症を誘導するために、弱毒化した生菌ワクチンを用いた場合の安全性は確立されていません。そこで我々は、これまで明らかにされた赤痢菌の感染機構や宿主粘膜炎症機構に関する基礎研究を通じて得られた知見を基に、炎症は最少化され、且つ、防御反応は最大限に誘導される理想のワクチン開発を目指した研究をすすめています。


7. エフェクタータンパク質の菌体外分泌機構

 細菌の病原性因子は、菌体の表面や周囲のみならず直接宿主細胞内にも分泌されます。特にグラム陰性病原性細菌の多くは、宿主細胞へ接触すると、特殊な分泌装置を通じて一群の分泌性機能タンパク質(エフェクター)を宿主細胞質へ注入し、感染に必要な機能を誘導することが知られています。現在、赤痢菌、EPEC、O157のエフェクター分泌装置であるタイプIII分泌装置、また、ヘリコバクターのCagAタンパク質の分泌に必要なタイプIV分泌装置について、その超微細構造と機能に関する研究を行っています。この分泌機構とエフェクターによる宿主細胞修飾および免疫応答機構を明らかにして、その知見を感染予防や治療へ応用することを目指しています。