研究者紹介


 生医学は21世紀の医学分野において中心的な位置をしめることが期待されている。再生医学のキーワードは細胞である。すなわち未分化な細胞を積極的に利用することにより、生体組織、臓器の機能再生や再構築をめざす医学である。一方で類似の概念として、組織工学がある。これは人工材料と細胞を組み合わせて、組織の再生や臓器の再建、構築を行っていく学問である。ここで解説する歯胚再生はわれわれがこれらの概念に基づいて研究した成果から生まれたものである。

胚とは歯と歯周組織の原基である。歯胚は以下のような過程を経て形成される。すなわち歯堤が形成された後、歯牙の萌出位置に相当する領域の口腔粘膜上皮が増殖し、球状の肥厚部として歯蕾が形成される。そして、発生過程の進行と共に形が大きくなり、形態が変化したものが歯胚である。その歯胚を上皮性部分の組織分化と形態分化の程度によって、便宜的に蕾状期、帽状期、鐘状期に区別されている。

 胚再生では生物学的な歯牙の代生歯を構築することをゴールとしている。われわれが行った歯胚再生の手法は、今までに行われた二つの大きな研究の成果を参考にした。第一に小腸などの臓器の発生における上皮結合織相互作用である。これは歯胚の発生における条件の一つに、エナメル質を形成する上皮組織と象牙質や歯髄などを形成する間葉系組織の相互作用を必要とするからである。第二に骨や軟骨組織のように細胞から硬組織の誘導を必要とすることである。これら二つの問題を解決することで歯胚再生が可能となると考えた。

験方法として、ブタ歯胚より上皮系組織と間葉系組織からそれぞれの細胞を単離し、混合した後に生体吸収性材料であるポリグリコール酸のメッシュに播種する。播種した細胞が担体に接着した後にヌードラットの腹腔下に移植する。移植後20週にて取り出すと単離した歯胚の細胞から歯の構造を持った組織が形成されることが確認できた(図1)。この図から、歯冠相当部にはエナメル質様組織と象牙質様組織が観察される。一方で、歯根相当部には内部に歯髄様組織を含む象牙質が観察され、その周囲にはセメント質様構造も認める。しかし、このような天然の歯と同様の形態を持つ歯牙を再生することは困難であり、再現性が今後の課題として残されている。

 かし、この研究の大きな成果は組織工学的手法を進歩させることで人工的に第3の歯牙が作れる可能性を示したことである。解決しなければいけないことは、多く残されているが、近い将来人工歯根に取って代わる治療方法として応用される日が来ることを期待している。

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